減圧神話:パート2
By: マーク・パウエル
【新連載企画】減圧神話:パート1 | ブログ | SDI / TDI / ERDI / PFI /First Response 日本サイト- ダイビング教育機関/指導団体・Cカード
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減圧神話:パート1 By: マーク・パウエル 2012年、アメリカ政府は「人魚が存在するという証拠はない」という声明を発表しました。これはジョークではありません。この発表は多くのニュース...
前回のパート1では、一般的にいう神話ついてどういうものか解説し、そして減圧に関するいくつかの神話について取り上げました。今回の減圧神話パート2では、より具体的に、ある特定の分野に焦点を当てようと思います。今回取り上げる特定の分野とは、安全停止でよくある2つの神話についてです。
神話-安全停止をしなくても問題ない
最初の神話は、安全停止は重要ではないというものです。皆さんもボート上で「安全停止をし忘れたけど、任意だから問題ない」というダイバーの声を聞いたことがあるかもしれません。前回の記事で、ノーストップダイビングとは減圧停止をしなくても水面まで直接浮上できるダイビングであると述べました。たしかに、安全停止は任意のものとされることが多いです。しかし、安全停止が重要でないという意味ではありません。その第1の理由は、従来の考え方では、体内に気泡があるかないかのはっきりした境界線が存在するとされているからです。この境界線は、組織が許容できる過飽和の最大量を表しています。この最大値をM値と呼び、減圧症(気泡あり)と減圧症でない(気泡なし)の境界線だと考えられていました。
残念ながら、それほど単純ではありません。M値は、ぼんやりとしたグレーのエリアを通る黒い線で表されています。これをカラーで表したのが下の図1です。図1の下部は、過飽和度が低く減圧症のリスクが低いことを緑色で表しています。一方、図1の上部は、減圧症のリスクが高いことを赤色で表しています。M値は、このエリアを横切る黒い線として描かれています。しかし、図1からわかるように、この黒い線が緑から赤に切り替わる正確なポイントを示しているわけではありません。実際には、M値の線の周りにも色が変わる範囲が広がっています。
そのため、ノーストップダイビングで浮上する際、たとえM値ラインを超えていなくても、M値ラインに近づくだけで気泡が発生するリスクがあるのです。
安全停止は、図1の「実際のプロファイル(ACTUAL PROFILE)」の線が示すように、ダイバーをM値ラインから安全な距離に保つことができます。これにより、ノーストップダイビングであってもM値から一定の距離を保つことで安全マージンを確保します。この価値は、ダイバーが36m(120ft)まで25分間のナイトロックスダイブを行った研究で示されました。彼らが使用したテーブルでは、これはノーストップダイビングでした。ダイバーは3つのグループに分けられました。最初のグループは、通常の浮上スピードで水面まで直接浮上しましたが、安全停止しませんでした。2番目のグループは同じプロファイルでしたが、3m(10ft)で2分間の安全停止を行いました。3番目のグループも同じダイブを行いましたが、6m(20ft)で1分間、3m(10ft)で4分間の停止を行いました。どのダイバーも減圧症を発症しなかったので、この点からはすべてのダイビングが成功したとみなすことができます。しかし、研究者は各グループのダイバーに対してドップラー超音波検査も行いました。ドップラー検査は超音波を使用して体内の気泡を検出するものです。検査はダイバーが浮上してすぐに行われ、その後2時間まで15分間隔で行われました。
下の図2からわかるように、直接浮上ではかなり数の気泡が発生し、潜水後15分で気泡数が増加したことがわかります。その後、2時間かけて徐々に減少していきましたが、2時間後も一定数の気泡が残っていました。2番目のグループは3m(10ft)で2分間の安全停止を行いましたが、この2分間の安全停止が気泡数にかなりの影響を与えたことがわかります。浮上中にも気泡はありましたが、直接浮上の2時間後に残っていた気泡よりは少ないです。その数は再びわずかに増え、その後ゆっくりと減少し、2時間後には比較的少ない数になりました。6m(20ft)で1分間停止し、3m(10ft)で4分間安全停止を行った第3グループでは、気泡の数はさらに少なくなり、45分後には完全に消滅しました。
もちろん、どのダイバーにも減圧症の徴候や症状は見られなかったので、すべてのダイビングが成功したと言えます。しかし、このようにして検出された気泡(静脈ガス塞栓、またはVGE)は、「減圧ストレス」の徴候であり、潜在的な減圧リスクの可能性を示しています。このような気泡が重要である第2の理由は、反復潜水を行う場合、気泡が体内にある状態で2回目の潜水を開始する可能性があるからです。通常、ダイバーはダイビングとダイビングの間に1~2時間の水面休息をとりますが、2時間の水面休息を取ったとしても、直接浮上した最初のグループは、他のグループが1本目のダイビングから浮上した直後よりも多くの気泡を含んだ状態で、2本目のダイビングを始めることになります。このことから、直接浮上して2時間の水面休息を行うよりも、安全停止して45分の水面休息を行う方が安全であることがわかります。
このことから、安全停止は減圧ストレスを大幅に軽減できることがわかります。もし安全停止を怠ったダイバーがいれば、上のグラフを見せて、次のダイビングを控えるか、水面休息を長めに取るか、浮力コントロールの改善を検討するよう説明すると良いでしょう。
神話 - 安全停止は必ずしなければならない
安全停止はとても良いアイデアで、可能な限り行うべきです。しかし、これは「必ず安全停止をしなければならない」と表現されることがあります。上記の説明を踏まえると、これは神話というよりむしろ良いアドバイスのように思えます。しかし、このような表現の問題点は、それが規則や教義として固定化されることで、規則の背後にある本来の意図が失われ、最終的には規則だけが記憶されることです。安全停止を行う理由は、減圧症のリスクを減らすことによって安全性を高めるためです。しかし、安全停止をすることでリスクが高まる可能性があるのなら、安全停止はそのために作られた目的そのものを破っていることになります。安全停止をすることで、全体的なリスクを減らすどころか、むしろ増やしてしまう場合もあります。例えば、ダイバーのガスが危険なほど少なくなっているとき、安全停止をするとガス切れ状態になることがあります。この場合、安全停止は減圧症のリスクを減らすよりも、溺れるリスクをはるかに高めることになります。このような状況では、安全停止を行わないことが最も安全な選択です。同様に、ダイバーが心臓発作や浸水性肺水腫(IPO)など、生命を脅かすような深刻な病状を患っている場合、安全停止にこだわることは、ダイバーが医療的な治療を受けるまでの時間を長くし、リスクを高めることになります。
このような状況は明らかに例外的なものであり、大多数のダイバーが遭遇することはないでしょう。さらに、ガス切れは適切なガスマネジメントとモニタリングによって回避できるものです。しかし、決して予測できないこともあり、予期せぬ病状もそのひとつです。バディの緊急事態に直面したとき、その場で安全停止を省略することが適切かどうか判断するのは難しいことです。もしまだレスキューコースを受講していないのであれば、申し込むことをお勧めします。レスキューコースではこのような問題を考え、さまざまな選択肢を検討することができます。
減圧停止が義務付けられると、状況はさらに複雑になります。減圧停止を逃すリスクはさらに高くなるため、通常はこれを避けるためにあらゆる対策が必要です。ガスマネジメントは、ダイバーの1人が壊滅的なガス切れに陥ったとしても、チームがダイビングを完了できるよう、十分に綿密なものでなければなりません。しかし、予期せぬ病状のリスクは常に存在します。バディが心臓発作やIPOで苦しんでいる場合、減圧スケジュールを完了させるために水中にとどめておくことは、おそらく最善の選択ではありません。水中にとどめておくと助からない可能性が高いので、水面まで連れて行くのが彼らにとって最善の選択となります。これは、あなた自身の減圧症のリスクとのバランスをとる必要があります。これについては、UHMS Recommendations for rescue of a submerged unresponsive compressed-gas diverを参照してください。
これまで見てきたように、安全停止は減圧のリスクを減らす非常に効果的な方法であり、現実的なダイビングでは必ず行うべきです。しかし、全体的なダイビングのリスクを減らすために安全停止を省略することが理にかなっている、非常にまれな状況があることもわかりました。