スポーツダイバーにも役立つ!テクニカルダイビングのヒント

投稿者:青木 優子

テクニカルダイビングの高度なテクニックを取り入れることで、安全性と精度を高め、スポーツダイビングのスキルを向上させましょう
By タマラ・アダム

※スポーツダイビングとは、レクリエーショナルダイビングのこと。
スポーツダイバーとは、同じくレクリエーショナルダイバーのこと。

 私は2016年にテクニカルダイバーになりましたが、テクニカルダイビングでフルタイムの仕事を始めたのは2021年からです。パンデミックによるロックダウンの後、テクニカルダイビングファシリティでのフルタイムのポジションを打診され、テクニカルの世界に身を投じる事に決めました。それ以前は自営業で、プライベートインストラクター兼ガイドとして、リーフダイビングからカバーンダイビング、自然科学に関するダイビング、さらには旅行まで、あらゆる種類のダイビングオペレーションを行う、楽しくて変化に富んだダイビングの仕事をしていました。その間、アドバンスド・ナイトロックス、減圧手順、フル・ケーブなどのテクニカルダイビングコースも受講しました。テクニカルダイビングのトレーニングを受けてはいましたが、生計を立てるためにスポーツダイビングを行うことがほとんどで、テクニカルダイビングは休日や特別なプロジェクトのために行っていました。
 テクニカルダイビングのトレーニングは、オープンウォーターインストラクターとしての私のスキルを向上させてくれました。より安全な方法で潜れるようになり、減圧をより良く理解し、より良い中性浮力を確立、トリムも完璧になりました。また、気付かないうちに、お客さまにテクニカルダイビングを紹介してアドバイスもしたので、簡単なツールやテクニックを共有することでお客さまのダイビングが向上しました。

 ここでは、テクニカルダイビングと見なされることが多いものの、テクニカルダイビングのコースを受講しなくても、あらゆる種類のスポーツダイビングに応用でき、ダイビングをよりスムーズかつ安全に行うことができるツールをいくつか紹介しましょう。


Cave diving picture by ©Natalie Gibb

1. 器材

ホースの長さ

 レンタル器材の標準的なホースの多くは、様々な体格の人が使用できるように、必要以上に長いサイズになっていることがよくあります。自分の器材を購入し、ホースの取り回しを良くすることがあなたのダイビングとスキルのレベルアップにつながります。ホースの長さが自分と自分の体格に合っているか、少し時間をかけてチェックしましょう。
 タンクを地面に置いたときに、残圧計を接続する高圧ホースは床やそれより低い位置まで垂れ下がってはいけません。ホースの長さが適切であれば、ウェストのDリングにクリップで留めるか、クリップで固定することができます。重いSPGを引きずり出す代わりに、必要に応じてクリップを外してチェックすることができます。SPGは下方に垂れ下がったり、横にループしたりして環境に悪影響を与えることがよくあります。ホースの長さがタンクと同じ長さであれば(ほとんどのタンクサイズのサイズの場合)、クリップを外してもホースが下の方まで垂れ下がることはありません。
 レギュレーターホースは、見た目も感触もすぐに良くなるので、スポーツセットアップを改善する上で私が最も好きなもののひとつです。これはまた、ロングホース/ショートホースのセットアップについての議論のきっかけにもなり、このセッティングについては私もダイバーとよくシェアしています。(この記事の後半を参照。)
 従来のセッティングにおけるメインレギュレーターホースは、口の中のレギュレーターの位置に影響を与えずに、左右どちらにでも首を回せる十分な長さが必要です。ホースが長すぎると、頭部から離れて大きなループができ、肩から落ちてしまうこともあります。これによりレギュレーターが傾き、口の中で横向きになることで顎に緊張が生じ、レギュレーターを所定の位置に保持するために歯を食いしばらなければならなくなり、疲れるだけでなく見た目も悪くなります。
 オクトパス(代替空気源)に関しては、その主な目的は他の人とガスを共有する能力です。オクトパスホースの標準的な長さは90cm/ 30インチで、これならガスを提供するダイバーの隣で、お互いが浮上するまで快適に泳ぐことができます。オクトパスホースが短すぎると、ダイバーがトリムを保持したり、互いに並んで水平に泳いだり、快適な姿勢で安全停止をしたりするスペースがないため、不快に感じるでしょう。

ショートホース、ロングホース...それはテクニカルから来ています!

 テックダイビングでは、ディープダイビング、オーバーヘッド(閉鎖環境)ダイビング、ミックスガスダイビング、その他のダイビングでも、安全性の構成要素の1つとして冗長性の原則を用います。冗長性とはこの場合、主要な生命維持源が危険に晒された場合に安全網が確保されることを意味します。バックマウントツインセットでは、典型的なセットアップとして、左側のタンクに接続されたショートホースが含まれ、このホースは、セカンダリーレギュレーターとして顎の下のネックレスから垂れ下がります。ロングホース(長さ約210cm)はプライマリーレギュレーターとして使用され、他のダイバーがガス切れになったときに緊急に提供されるものです(スポーツダイビングではセカンダリーレギュレーターが供給されるのが一般的ですが、それとは対照的です)。
 これはスポーツダイビングでも可能です。シングルのバックマウントタンクにレギュレーターを装着し、ショートホース・ロングホースのセットアップを行います。それを安全かつ合理的なものにするためには、いくつかの重要な要素を整える必要があります。ショートホース(セカンダリーレギュレーター)は、セカンドステージがあごの下にかかるくらいの長さが必要です。ホースが短すぎると、レギュレーターが肩より上に上がってしまい、所定の位置から外れます。ショートホースの長さが長すぎると、ロングホースのクリップの邪魔になる不要なループが形成されます。このタイプのセットアップのロングホースは、ダイビング中はダイバーの口にくわえているべきですが、使用しないとき(水面)はDリングにクリップで留めておきます。スポーツセットアップで私が使用するロングホースの長さは150cm/60インチで、私の体のサイズにぴったりです。ただし、テクニカルダイビングでは2mのホースが標準であり、スポーツセットアップにおいては胸囲の広い背の高いダイバーに使用できます。ロングホースは、ダイバーの右側にあるファーストステージから下って、右腕の下を通り、胸を横切り、左から首の後ろに上がり、右肩のDリングにクリップで留めます。必要に応じて、余ったホースは、バックルの横にあるBCDベルトの下に収納できます。事前にSドリルを行い、このホースに引っかかるものがないことを確認してください(装備がすべて揃ったら、ホースを目の前に展開して、自由に供給できることを確認します)。


Diving equipment picture by ©Ricardo Castillo

バックプレートとウイング

 これはダイビングフォーラムでよく聞かれる質問です。ー私たちはコンフィグを変える必要がありますか?私たちのほとんどはジャケットスタイルのBCDでダイビングを学びましたが、それは世の中にある選択肢の一つに過ぎません。しかし、ジャケット式BCDとハーネス&ウイングとでは何がそんなに違うのでしょうか?
 バックプレートは主にスチール製またはアルミニウム製です。スチールプレートは、コンフィグに約2.7kg / 6ポンドの重量が足されます。これは多くの場合便利で、ウェイトを追加する必要がなくなるでしょう。しかし、トリムのためにウェイトを適宜配置することはできなくなります。これは、多くのウェイトが必要な人、厚手のインナーを持っている人、バランスが取れていて頭や足が重くない人に適しています。
 アルミプレートは持ち運びが簡単で、ウエイトを必要な場所に配置できます。
 ホガース式の構成(ホースの項目で説明した、ショートホースとロングホースの構成)では、プレートと1枚のウェビングでできたハーネスを使用します。ウェビングはプレート自体に通されています。(下の写真①参照)


写真①

 キットを組み立てる際ははシンプルさが重要となるため、通常、バックプレートとウイングのセットアップにはパッドや装飾はありません。一般的なキットは、両肩にDリングが1つずつ、腰に SPG のボルトスナップを留める D リングが 1 つあります (上記のホース情報を参照してください)。テクニカルショーツまたはドライスーツのポケットにアクセサリを収納すると、セットアップが非常にすっきりして、ダイビング中にぶら下がるものがありません。
 ウイングでのダイビングは慣れるまで時間がかかるかもしれませんが、適切に使えば、ウイング内のガスがフロートのように左右均等に分散されるため、水平方向のトリムや横方向の安定性に大きく役立ちます。どんなコンフィギュレーションにも言えることですが、ウイングを使うにはいくつかの課題もあります。時にはガスが片側に溜まることもありますが、その場合はガスが適切に排出されるか、バランスが保たれているかを確認するスキルを身につける必要があります。バックプレートとウィングの組み合わせを使用すると、バックマウント・ダブルに切り替えてテクニカルトレーニングを行う場合に備えることもできます。

2. コミュニケーション

 テクニカルダイビングでは、ライトやSMB(フロート)/ スプールを片方の手にもっている必要があるため、片手でのコミュニケーションを行います。オーバーヘッド環境でのハンドシグナルは、ライトで照らす必要があり、同じ手で同時にシグナルを出すことはできません。また、私たちはコマンドシグナルを使用します。つまり、あるシグナルに対して、同じシグナルで応答することで、エラーの余地を少なくします。"OK"、"ホールド"、"浮上/中止"はコマンド・シグナルですが、一部の分野ではほとんどの信号をコマンド信号にすることが標準になっているため、テクニカルダイバーは与えられた信号を繰り返すことがよくあります。
 しかし、数字のように両手を必要とするシグナルの場合はどうなるのでしょうか?
 片手での数字のシグナルは次のように行われます:
 手のひらを縦に前に向けて、1,2,3,4,5、手のひらを横に向け、6,7,8,9。ゼロは手のひら全体でOの字を描きます。195の場合は1-9-5とあらわします。


片手でのハンドサイン

3. 推進力

 ほとんどの人は、推進力のテクニックにあまり時間を費やすことなくダイビングを習得します。フラッターキック(バタ足)は誰にとっても自然で簡単に身に付きます。フラッターキックは、プールで遊んでいるときや海でシュノーケリングをしているときに、誰もが使ったことのあるキックなので、間違ったキックをすることはまずありません。私がテクニカルダイビングを学んだとき、生まれつきダイビングスキルがある生徒や、より高いレベルのスキルが必要な生徒に、異なる課題を与えたいと考えました。生徒がダイビングスキルをすぐに習得した場合、私はより複雑な推進テクニックを導入して挑戦させ、継続的に上達する機会を与えました。私は少しずつ、コースの早い段階でフロッグキックを導入するようになりました。ある時点でフラッターを導入するのをやめ、すべてのトレーニングダイブで基本的なキックとしてフロッグキックを使いました。ほとんどの人にとって、最初からフロッグキックを習得するのがとても簡単だったことに驚きました。フロッグキックがマスターできたら、コースの終盤にはリバースフロッグキックも取り入れました。これが楽しく、みんな後ろに下がって水中での動きをコントロールできるというアイデアを気に入ってくれました。本当にうまくいったので、推進スキルにかける時間はほんの少し増えただけでした。20分の練習でクラスの流れが変わったわけではありませんが、生徒たちは最初からずっと上手になりました。
 オープンウォーター講習で学ぶことができる推進技術はいくつかあります。テクニカル・ダイバーから習う場合は、おそらくかなり細かいところまで習うことになるでしょう。

 フロッグキックとリバースフロッグキックの他に、ヘリコプターターン、シャッフルがあります。
 ヘリコプターターンはフロッグキックとよく似ています。ほとんど同じ動きで、片足だけで行います。これによりダイバーは旋回することができ、沈船や通り抜けのような狭い場所や、海洋生物に遭遇したときに非常に役立ちます。それは誰かや何かに対して自分の位置を修正し、自分が望む角度に、正確になることができます。
 シャッフル・キックは、谷のような狭い水路で、横のスペースがほとんどない場合に主に使われます。シャッフルキックに必要な力は最小限で、動きは非常に正確で控えめです。シャッフル・キックでは、足首と足の動きだけで、片足ともう片方の足を交互にリズミカルに、安定した動きで前進します。
 科学に関連するダイビングや写真撮影を行うダイバーは、洗練された推進テクニックを学び、実践することで大きな恩恵を受けます。またそれは、環境にとっても非常に有益です。


Diver demonstrating Frog Kick by ©Ricardo Castillo

4. ガス戦略

 ダイブプランが正確かつ安全であることを確認するために、ガス消費量の計算方法を学びましょう。SACレート(Surface Air Consumption、1分間に水面で呼吸するガスの量をbarまたはpsiで表したもの)またはRMV(Respiratory Minute Volume、1分間に呼吸するガスの量をリットルまたはキュービックフィートで表したもの)を理解しましょう。この2つの概念は互換性があるように見えるかもしれませんが、全く同じというわけではありません。ガスの計算にはどちらか一方を選択できます。
 ガス戦略として3分の1の法則を導入することは、テクニカルダイビングから取り入れると効果的です。3分の1のルールとは、往路と復路でそれぞれ3分の1ずつガスを消費し、3分の1を他のダイバーにガスを提供するなどの緊急時のために予備として残しておくというものです。このルールは、ダイビングの深度や種類、複雑さによって変えることができます。使用できるガスの量とそれをどのように分配できるかを知っておくことは、ダイビングの予備として一般的な経験則(ダイビング業界では50 bar/700 psi が一般的)を使用するよりも安全です。


Sidemount picture by ©Ricardo Castillo

5. ダイブコンピューターの使い方

 コンピュータを使ってNDL(無減圧潜水限界)、潜水時間、水深をチェックするのは基本的なことです。最近では、ほとんどのコンピューターに少なくともプランニング機能がついています。最大深度だけでなく、ダイビングの平均深度に関する情報を求め、ダイビング中にそれをモニターすることで、NDLを決定したり、特定の深度でどれくらいの時間を過ごすことができるかを計画したり、減圧義務を回避したりすることができます。お使いのコンピュータのモデルにもよりますが、快適さのレベルやその他の変数に応じて、保守的な係数を選択することもできます。冷水域や慣れないポイント、初めてのバディとのダイビング、ディープダイビングの場合は、保守的な要素を厳しく設定することがあります。逆に、慣れ親しんだ場所でいつものチームと潜る場合は、それに応じて保守係数を調整します。


Dive computer picture by ©Natalie Gibb

6. 完璧な浮力

 指揮系統とは、多くのテクニカル・インストラクターが水中でのタスクの優先順位を確立するために用いる概念です。浮力、トリム、姿勢は、水中を移動することを含め、私たちが行いたいあらゆる作業の基本です。基本的なスキルが適切でない場合、私たちの注意の大部分は、浮いていること、中性浮力を保つこと、または水面に浮かび上がらないようにすることに集中しなければならなくなります。浮力とトリムを完璧にすれば、より多くの注意力を自分のやりたいことに向けることができます。浮力とトリムが安全性に大きく影響するのはこのためです。これら土台の基礎がしっかりしていれば、技術の低さが原因で底にぶつかったり、堆積物を巻き上げたり、環境を破壊したりといった問題を引き起こすことなく、メモを取ったり、コミュニケーションをとったり、ナビしたり、写真を撮ったりすることに集中できます。
 テクニカル・インストラクターからアドバンスボイヤンシーダイバー(SDI ADVANCED BUOYANCY DIVER)の講習を受けることは、まだ浮力のスキルを磨いていない人にとって、本当に有益なことです。
 このように、必ずしもテクニカルダイビングコースを受講しなくても、テクニカルダイバーから学べる有益なテクニックはたくさんあります。ダイビングのテクニックには、フォーラム、地元のインストラクター、ソーシャルメディア、ブログ、動画などを通じてアクセスできます。私たちは幸運にも、テクノロジーによって、ほんの数回クリックするだけで、ダイビングトレーニングや探検の次のステップを見つけることができる世界に生きています。テクニックを磨き、器材をチューンナップし、テクニカルダイビングのスキルやオプションを探求することで、レクリエーショナルダイブをより安全で快適なものにするきっかけになれば幸いです!


Buoyancy picture by ©Ricardo Castillo


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