SDIのインストラクションの考え方
寄稿:マーク・パウエル(Deco for Ⅾivers著者 TDI/SDIアドバイザー)
他団体からSDIにクロスオーバーしてみると、非常に似ているものと全く違うものがあります。この記事では、SDIで快適に指導を行えるよう、他団体で教えることに慣れたインストラクターがスムーズにSDIコースが提供できるように、相違点と類似点を説明します。
まずは似ているものからお話しします。ダイビング物理学はあなたが教えている指導団体が何であっても同じです。同様にマスククリアの教え方も様々なので、それも教えるものの原則は変わりません。
SDIのコース構成は、他団体とよく似ていますが、いくつかの大きな違いがあります。
多くのSDIコースは他団体と同じようなコースの名称です。SDIでもオープンウォーターコース、スキューバディスカバリー、レスキューダイバー、ダイブマスターというように、他団体のコースと変わりはありません。
では大きな違いはというと、
アドバンスドオープンウォーターコース(AOW)がないことです。
SDIにはアドバンスドダイバーコースがありますが、従来のAOWコースよりもはるかに多くの経験が必要です。具体的には、SDIアドバンスドダイバーは25ダイビングの経験と4つのスペシャルティを取得が必要です。これらの経験を得ると、アドバンスドダイバーのCカードを申請することができます。
他団体のAOWコースに相当するコースとしてSDIアドバンスドアドベンチャーがあります。
このコースが作られた理由は、他団体のAOWからSDIレスキューへのハードルが高いため、中間のコースを設定しハードルを下げることを目的として作られました。OWを取得したら、アドバンスドアドベンチャーは次のステップとしてたいへんスムーズです。その次にアドバンスドダイバーがあり、このステップによってレスキューダイバーはたいへん達成しやすいステップになります。これはSDIコースの進化によって、講習生は常に達成可能な目標があることを意味します。スモールステップでダイビング能力を引き上げ、スキルを向上させ、長く楽しめるダイバーを育てることができます。
SDIオープンウォーターコースは、トレーニングが4つのセクションに分かれているという点ではほとんどの他団体と同じような構成をしています。
- ホームワーク学習(オンラインまたは紙のマニュアルのいずれか)
- インストラクターによる学科講習
- 限定水域(コンファインドウォーター)
- 海洋実習(オープンウォータートレーニング)
講習生は理論をオンラインで行うか、伝統的な書籍のマニュアルを使用するかの選択はできます。講習生がホームワークを終えたら、インストラクターは面談を行い、教材を見直したり、質問をしたり、地元の事例やマナーについて話し合ったり、教材を十分に理解しているかどうかを確認する機会を持ちます。
SDIの違いの1つは、eラーニング(またはペーパーマニュアル)が対面指導に取って代わるものではないと考えていることです。講習生がペーパーマニュアルをレビューしたか、eラーニングを完了したかどうかだけでなく、講習生がコースのコンセプトや本質を完全に理解し、実際にそれらを活用できるようになることを大切にしています。
学科講習の主な焦点は、教育であり、セールスではありません。
ダイバーコース中に、インストラクターは追加のトレーニング、器材、ツアーのプロモーションを行うことはダイバーにダイビングを続けてもらうためにたいへん重要です。しかし忘れてはいけないのは学科講習の主な焦点は、教育であり、セールスではありません。もちろん、追加のトレーニング、設備、またはツアーについて伝えることが適切な時もありますが、それは各セッションで必須ではなく講習生のダイビングの目標を満たすために必要とする場合に行うべきです。
講習生が限定水域(プールや穏やかな内海)コースでの基本的なスキルを習得することに変わりはありません。SDI、PADI、SSIおよび他の多くの指導団体は、レクリエーションスキューバトレーニングカウンシル(RSTC)のメンバーであり、ダイバートレーニングのEN基準を満たしているとして欧州水中連盟(EUF)の認定も受けています。これは、各コースに基本的なスキルの基準があり、クリアしなければならないことを意味します。他団体との違いとしてSDIは、限定水域(コンファインドウォーター)でどのスキルを実施しなければならないかを義務づけていないことです。
例えば、一部の他団体は、ある講習生がマスククリアで苦労している場合、そのスキルを辛抱強く達成しなければならないと主張しています。つまりある団体では今受講している限定水域(CW)セッションですべての要件を完了することなく、次の限定水域(CW)セッションに進むことはできません。この方針では、場合によって、担当するインストラクターはスキルがきちんとできることではなく、基準チェックリストにチェックをいれることを意識して、きちんとスキルができていないのにできたことにして完了としてしまったり、セッションの順序どおりにできない人にドロップアウトを勧めたり、またはマスククリアに対して一生、苦手意識を植え付けてしまうような強制的なトレーニングをさせることになりえるかもしれません。
インストラクターがこのような考え方に陥らないように、SDIの考え方は講習生の人数やタイプに合わせてアレンジされたカリキュラムでスキルを身につけることを推奨しています。例えばマスククリアに苦労している講習生の場合は、別のトレーニングに切り替えてダイバーとしての自信を築いてから、別のセッションでマスククリアを行います。もちろん、すべての講習生は限定水域セッションの終わりまでにすべてのスキルを修了しなければなりませんが、講習生はどんな順序でも達成することが認められています。
ここにあげた話はSDIが良いと考えるインストラクション方法の一部に過ぎず、まとめるとSDIはSDIインストラクターがフレキシブルに講習生に適切な指導をする権限を与えており良いダイバーを育成することを大切にしているということです。
SDIのもう1つの違いは、講習生ができるだけ早く中性浮力がマスターできるように促していることです。
SDIインストラクターは、最初の限定水域セッションを、単に浮力コントロール、トリム、フィンワークに集中させるのが一般的です。浮力コントロールに慣れたら、マスククリアやレギュレータの回復などの他のスキルに移行することができます。結局のところ、私たちは、講習生が膝立ちで全てのスキルを行うのではなく、海洋実習で中性浮力を維持できるようにします。これは、“Teach divers, not skills”『スキルを教えるだけではない、ダイバーを育成するんだ!』というキャッチコピーに要約されています。チェックボックスのスキルリストを完成させるだけではなく、自信を持ってダイバーを育成するという最終目標について常に意識したいと考えているのがSDIなのです。
もちろん、講習生が浮力コントロールに苦労している場合、インストラクション方法のフレキシブルさによって、インストラクターはスケジュールを変更し別の教え方でスキルを教え、次のセッションで浮力コントロールの練習に戻ります。
このフレキシブルさは、インストラクターがさまざまなパターンの限定水域セッションを提案できる能力を備えていることを意味します。
少なくとも4回の限定水域セッションが必要ですが、インストラクターはセッションを自由に組み替えられます。ダイバーが海洋実習で楽しく快適に過ごせるように限定水域を組み立てているのです。
SDIはまた、すべての講習生が初回の限定水域セッションからダイブコンピュータを使用する方法を習得することを義務づけています。
ほとんどの講習生は資格を得るとすぐにダイブコンピュータを活用します。そのために最初から安全に使用する方法を教えるべきなのです。SDIスタンダードでは、すべての講習生が限定水域と海洋実習でコンピュータを使用する必要があると規定されています。インストラクターは、講習生がコンピュータの背景となる原則を理解するのに役立つと思う場合はダイブテーブルを教えることができますが、必須ではありません。
海洋実習では、浮力コントロールとダイバー育成にも力を入れています。講習生が限定水域トレーニングを完了するまでには、浮力コントロールをよく理解し、中性浮力を維持しながらほとんどのオープンウォータースキルを習得できることを目標にしています。
限定水域セッションのように、インストラクターは、環境と講習生にとって理にかなった方法で、各オープンウォーターセッションを自由に構成することができます。SDIインストラクターは、最初のダイビングでは講習生がスキルを習得することにフォーカスさせず、ダイビングを楽しんでもらうことにフォーカスしていると言います。しかし、「できることを積み重ねて楽しいダイビングをする」というスタンスの中で、講習生は器材を組み立て、バディチェックを行い、エントリーし、潜降し、フィンワークスキルとバディを意識し、安全停止を含むコントロール浮上、エキジット、器材の取り外しを行います。つまり実際は、講習生は多くのスキルを行っているのですが、インストラクターのダイバー教育に対する価値観の違いによってSDIの講習生は素晴らしい時間を過ごしており、良きダイバーになるために大切なことを楽しみながら学んでいるのです。今回の解説から、SDIの“Teach divers, not skills”「『スキルを教えるだけではない、ダイバーを育成するんだ!』という意味をご理解いただけましたでしょうか。
これは、経験豊富な良きインストラクターはSDIコースをすぐに理解し教えることができることを意味します。
講習生に良いダイバーになってもらうために理想のインストラクションを実践するよりもこれまでの慣れたコースで妥協してしまう誘惑があるかもしれません。良きダイバー育成を目指し良きインストラクターとなるには、SDIインストラクターとなりトレーニングの利点を取り入れることは近道ともいえます。繰り返しますがSDIシステムではインストラクターはフレキシブルなインストラクション法を使用できるようになります。SDIの価値観を吸収し組み立てていくことでクリエイティブなインストラクションが行えるようになり、SDIが理想とする良きインストラクターになることができるようになるでしょう。