●今村さん経歴
1989年スポーツ用品メーカー株式会社タバタに転職後、同社で宣伝広報活動の他、取扱説明書の制作、商品開発業務などに幅広く携わる。2000年代に入ってダイブコンピュータと減圧症の相関関係を独自に研究し始め、その結果を元に2007年に「減圧症の予防法を知ろう」をTUSAホームページ上に著述する。2011年1月日本高気圧環境・潜水医学会「小田原セミナー」で「ダイブコンピュータが示す無減圧潜水時間の危険性」という演題の講演を行って以来、日本体育協会公認スクーバダイビング指導員更新研修会、日本水中科学協会及び日本安全潜水協会のワークショップ、関東学生潜水連盟研修会など講演を多数行う。また、組織別の体内窒素バーグラフを採用したTUSAダイブコンピュータIQ-850の基本コンセプトを考案した他、同DC-Solarシリーズのアルゴリズム調整、M値警告機能などを考案。2016年末に新しいダイブコンピュータの開発という夢と減圧症予防啓蒙活動を本格的に行う目標のために株式会社タバタを退職し、全国で講演活動を行いながら現在に至る。
●待望のTDI減圧手順マニュアルが完成しました。こちらの事情でなかなか出版までに時間がかかってしまいました。今村さんに翻訳していただいたのは数年前なのですが、このマニュアルを翻訳してみて内容的にはいかがですか?
以前から、マーク・パウエル著の「Deco for divers」などを読み、それなりの勉強をしていたのですが、知らなかった知識もあり、非常に勉強になりました。内容的には減圧潜水の歴史、減圧理論、物理学、生理学、医学、ダイビング技術、器材、潜水場所での対応、応急処置など非常に多岐に渡っています。スラスラ訳せる部分もあれば、物理学に関する「ラプラスの圧力」など翻訳が非常に難しい部分もあり、一つの文章で2時間くらい考え込む事がありました。とにかく超大作なので、全部翻訳し終わるまでには足かけ2~3ヶ月かかりましたが、自分なりに補足説明なども入れて、読みやすく仕上がったのではないかと思います。良し悪しは第三者の判断になりますが、単なる翻訳には終わらず、独自性を入れる事はできました。
●TDI減圧手順ダイバーコースに参加される方たちは、このマニュアルで学んでいただくことになりますが、そのほかにどのような方たちに読んでいただくといいと思いますか?
基本的には段階式減圧潜水を前提としたテクニカルダイビングのマニュアルですが、特に様々なシチュエーションでの安全確保に対する考え方などは、レジャーダイビングに関わるインストラクターやガイドダイバー、及び一般レジャーダイバーの方にも是非一度目を通していただきたい内容です。全体から7割くらい削って、レジャーダイビング向けの読み物を作ると良いかもしれません。実は昨年から今年にかけて減圧症が争点となった裁判の弁護資料を2件依頼されました。一つはガイドダイバーが極めて安全なダイビングを行っていたにもかかわらず、ゲストが減圧症に罹患した疑いが持たれた案件を被告側に立って弁護するもの。もう一つは作業潜水をされている方が、旧高圧則のダイブテーブルに従って作業中に減圧症に罹患したかどうかという案件を原告側に立って弁護するものでした。特にインストラクターやガイドダイバーの方は正しい知識を備えて安全確保に努めないと、明日は我が身になるかもしれません。
●テクニカルダイビングでの減圧症に対する知識を見ていただくことができましたが、今村さんがダイコンおじさんとして行っている減圧症予防セミナーによい影響はありましたか? またテクニカルで言われていることと、今村さんの研究から導き出された予防法と比べていかがでしたか?
減圧症や減圧理論に関する部分に限れば、知らない知識はなかったのですが、それ以外の部分では知識を広げる事ができました。ですから、自分が行っている減圧症予防法セミナーには間接的に役立つ部分があると思います。テクニカルダイビングにおいても、一般レジャーダイビングにおいても、基本的に「浮上時点でいかに体内窒素分圧を下げるか」「急浮上をいかに抑えるか」が潜り方の鍵となるのは同じです。しかし、段階式減圧潜水が前提で長時間、あるいは大深度の潜水を行うテクニカルダイビングと、シングルタンクで短時間の無減圧潜水が前提、水深も40m以内のレジャーダイビングでは根本的に減圧症予防に対するアプローチが違います。例えば、テクニカルダイビングでは浮上速度はもちろん、浮上ペースもゆっくりである事が基本で、ディープストップも有効性があります。しかし、レジャーダイビングの場合は、浮上速度はゆっくりであるべきですが浮上ペースはゆっくりし過ぎると危険なケースがあります。またディープストップも行わない方が概ね安全です。レジャーダイビングにおいてはハーフタイム45分~50分あたりの、やや窒素の吸排出の遅い組織の体内窒素分圧をいかに抑えるかが鍵だとセミナーでは話していますが、正しい減圧症予防を行うにはある程度の減圧理論を知っておく必要があります。この部分が一般ダイバーもインストラクターやガイドダイバーも欠けているのが問題点だと思います。テクニカルダイビングでは最後の最後の浮上に相当な神経を使いますが、一般ダイバーもそうあるべきですね。特に水圧変化が大きい安全停止後の浮上速度が速すぎるケースが多いと常々感じています。
●今後の今村さんの減圧症予防セミナーのご予定はどのように予定されていますか?
コロナ感染問題の影響もありますが、これからは大人数での講演会ではなく、マンツーマンや少人数でのレクチャーに力を入れて行く予定です。表情を見ながら、理解しているかどうかを確認しながら話せるところが良いですね。今までに数回行ったのですが、ついつい熱が入って3時間半くらい話してしまいました。でも、皆さん、興味深い話なのか、すごく真剣に聴いていただいています。減圧症に罹患する可能性は高いとまでは言えませんが、正しい知識でダイビングを行わないと確実に罹患率が上がります。怖いのは一度罹患するとその内の15%程度の方が再罹患しやすくなり、身体の痛みや痺れなどによってダイビングの継続が出来なくなる事です。なかなか耳を傾けていただける人がいませんし、安全に投資をするダイバーは少ないのが現状ですが、素晴らしいダイビングをいつまでも楽しんでいただくためにも、細々ながらも減圧症予防活動を続けて行くつもりです。
●今村さん インタビューありがとうございました。そして減圧手順マニュアルの翻訳をありがとうございました。今村さんだからこそ、よりわかりやすくこのマニュアルを日本語にして頂けたと思います。またこのマニュアルと今村さんの講演をきいてもらうことで、幅広く減圧に関する知識が身につくと思います。すでに講演を受講された方もこのマニュアル読んでから、また今村さんの講演を再受講してみるとより理解が深まると思います。これからも共に安全ダイビングの啓蒙を行っていきましょう。ありがとうございました。
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